雨天コールドで最も得をしたのは誰か - 天候が書き換えた NPB の勝敗

コールドゲームのルール - 5 回が「成立」の境界線

NPB のコールドゲームは、5 回の表裏が完了した時点 (後攻チームがリードしている場合は 5 回表の完了時点) で試合が成立する。つまり、5 回終了時点でリードしているチームが勝利となり、同点の場合は引き分けとなる。4 回以前に中止された場合はノーゲーム (試合不成立) となり、後日改めて試合が行われる。この「5 回」という境界線は、試合の約 56% (9 回中 5 回) が消化された時点を意味する。残り 4 イニングで逆転する可能性は十分にあるにもかかわらず、天候という人間の力ではどうにもならない要因によって試合が打ち切られる。コールドゲームは、野球の結果が実力だけでなく運にも左右されることを最も端的に示す制度である。

雨に「救われた」試合 - リードを守り切れなかったかもしれない勝利

コールドゲームで最も得をするのは、序盤にリードを奪ったものの、中盤以降に相手の反撃を受けそうな展開のチームである。先発投手が 5 回まで好投してリードを保ったが、6 回以降はスタミナ切れで打ち込まれる可能性があった。リリーフ陣が不安定で、終盤の逆転を許す展開が予想された。こうした試合が 5 回で打ち切られれば、本来なら逆転されていたかもしれない勝利が確定する。逆に、序盤に失点したが中盤以降に追い上げる力を持つチームにとって、コールドゲームは最悪の結末である。打線が温まる前に試合が終わってしまい、逆転の機会すら与えられない。特に、相手の先発投手を 5 回で攻略しかけていた場面でのコールドは、戦略的にも精神的にも大きなダメージとなる。

ドーム球場の登場が変えたコールドゲームの地図

NPB におけるコールドゲームの発生頻度は、ドーム球場の普及によって大きく変化した。1988 年の東京ドーム開業を皮切りに、福岡ドーム (1993 年)、大阪ドーム (1997 年)、ナゴヤドーム (1997 年)、札幌ドーム (2001 年) と、ドーム球場が次々に建設された。ドーム球場では雨天中止もコールドゲームも発生しないため、ドーム球場を本拠地とする球団はコールドゲームの影響を受けにくくなった。一方、屋外球場を本拠地とする球団は依然としてコールドゲームのリスクを抱えている。甲子園球場 (阪神)、横浜スタジアム (DeNA)、神宮球場 (ヤクルト) は屋外球場であり、梅雨の時期や台風シーズンにはコールドゲームが発生する可能性がある。2023 年に開業したエスコンフィールド北海道 (日本ハム) は開閉式屋根を持ち、天候に応じて屋根を閉じることができるため、コールドゲームのリスクを大幅に低減している。

コールドゲームと投手の記録 - 完投が「短縮」される問題

コールドゲームは投手の個人記録にも影響を与える。5 回でコールドとなった場合、先発投手が 5 回を投げ切っていれば「完投勝利」が記録される。通常なら 9 回を投げなければ完投にならないが、コールドゲームでは試合が成立した時点で完投が認められる。これは投手にとって「お得な」記録である。逆に、ノーヒットノーラン完全試合を狙っていた投手にとって、コールドゲームは悲劇となる。5 回まで無安打で抑えていても、コールドで試合が終われば記録としてはノーヒットノーランにはならない (NPB ではコールドゲームでのノーヒットノーランは参考記録扱い)。完璧な投球をしていた投手の偉業が、雨によって「未完」に終わる。天候は投手の記録にも容赦なく介入するのである。

「雨乞い」と「てるてる坊主」- ファンの天候への祈り

コールドゲームの可能性がある試合では、ファンの間で独特の心理が働く。リードしているチームのファンは雨が強くなることを願い、負けているチームのファンは雨が止むことを祈る。SNS 上では「雨よ降れ」「雨よ止め」という相反する祈りが同時に投稿される光景が見られる。日本の文化では「てるてる坊主」を吊るして晴天を祈る習慣があるが、野球ファンの間では「逆てるてる坊主」(雨を祈るために逆さに吊るす) という冗談も存在する。コールドゲームは、野球の勝敗が人間の力を超えた要因に左右されることを思い出させる。どれほど優れた戦略を立て、どれほど優秀な選手を揃えても、空から降る雨には勝てない。この無力感と、それでも天候に一喜一憂するファンの姿が、コールドゲームの独特の魅力を生んでいる。

コールドゲームは「不完全な決着」か「自然の裁定」か

コールドゲームに対する評価は分かれる。批判的な立場からは、9 回まで戦って初めて正当な結果が出るのであり、5 回での打ち切りは不完全な決着であるという意見がある。特にシーズン終盤の優勝争いにおいて、コールドゲームの勝敗が順位を左右した場合、その正当性は厳しく問われる。一方で、コールドゲームを「自然の裁定」として受け入れる立場もある。野球は屋外で行われるスポーツであり、天候はグラウンドコンディションの一部である。雨の中でプレーを続ければ選手の怪我のリスクが高まり、ボールが滑って投手の制球が乱れ、グラウンドがぬかるんで守備に支障が出る。安全と公平性を考慮すれば、適切な時点で試合を打ち切ることは合理的な判断である。コールドゲームは、野球が自然環境の中で行われるスポーツであることの証であり、その不確実性こそが野球の魅力の一部なのかもしれない。