1 試合で約 70〜120 個のボールが消費される
NPB の 1 試合で使用されるボールの数は、おおむね 70〜120 個とされている。この数字は試合展開によって大きく変動する。投手戦で三振が多い試合ではボールの消費が少なく、打撃戦でファウルボールが多い試合では消費が増える。延長戦に入ればさらに増加する。ボールが交換される主な理由は、ファウルボールでスタンドに入った場合、ホームランでスタンドに入った場合、ワンバウンドで汚れた場合、投手が交換を要求した場合、そして審判が傷や汚れを理由に交換を判断した場合である。1 球ごとに交換されるわけではないが、数球使用するとボールの表面に傷や汚れが付き、投手の握りや変化球の曲がりに影響するため、頻繁に交換される。
NPB 公式球の製造 - ミズノの独占供給
NPB の公式球はミズノが独占的に製造・供給している。ボールの規格は厳密に定められており、重量は 141.7〜148.8 グラム、周囲は 22.9〜23.5 センチメートル。芯にはコルクとゴムの混合素材が使われ、その周囲を毛糸で巻き、最外層に牛革を縫い合わせる。縫い目は 108 針で、この縫い目の高さと幅が変化球の曲がりに直接影響する。NPB は 2011 年に公式球を「統一球」に変更し、反発係数を低く抑えたボールを導入した。この変更は打撃成績に劇的な影響を与え、本塁打数が激減した。2013 年には反発係数が密かに元に戻されていたことが発覚し、「統一球問題」として大きな騒動となった。ボール 1 個の変更が、リーグ全体の成績を左右する。それほどまでに、野球はボールという道具に依存したスポーツなのである。
ボールの「泥揉み」- 試合前の儀式
新品のボールはそのまま試合に使われるわけではない。試合前に「泥揉み」と呼ばれる処理が施される。新品のボールは表面がツルツルしており、投手が握りにくい。そこで、専用の泥 (ラビングマッド) をボールの表面に薄く塗り込み、適度な摩擦を与える。この泥揉みは審判団の管理下で行われ、試合で使用するすべてのボールに対して実施される。MLB では「ルーナ・マッド」と呼ばれるニュージャージー州の特定の川から採取された泥が伝統的に使用されてきたが、NPB では国産の泥が使われている。泥揉みの加減は審判や担当者の経験に依存しており、塗りすぎるとボールが滑りやすくなり、塗りが足りないとツルツルのままになる。この微妙な加減が、実は試合の投球に影響を与えている可能性がある。近年、MLB では泥揉みに代わる工業的な表面処理の導入が検討されており、NPB でも将来的に同様の変更が行われる可能性がある。
ファウルボールの行方 - スタンドに入ったボールは誰のもの?
ファウルボールやホームランボールがスタンドに入った場合、そのボールは観客のものになる。これは NPB でも MLB でも共通のルールである。ただし、NPB では長らく「ファウルボールは返却してください」という慣行が存在した。1990 年代以前は、スタンドに入ったボールを係員が回収に来ることが一般的であった。この慣行が変わったのは、ファンサービスの向上が重視されるようになった 2000 年代以降である。現在では、スタンドに入ったボールは観客が持ち帰ることが公式に認められている。年間で考えると、NPB 全体で 1 シーズンに約 6 万〜10 万個のボールが試合で消費される計算になる。そのうちスタンドに入るボールは相当数に上り、ファンにとっては貴重な記念品となる。ホームランボールは特に価値が高く、記念ボールとして大切に保管するファンも多い。
使用済みボールの「第二の人生」
試合で使用された後、交換されたボールはどうなるのか。傷や汚れが軽微なボールは、打撃練習用やブルペンでの投球練習用として再利用される。試合球としての基準は満たさなくても、練習用としては十分に使える。大きな傷があるボールや、縫い目がほつれたボールは廃棄される。一部のボールは、選手のサイン入りボールとしてファンイベントやチャリティーオークションに回されることもある。また、記念試合 (開幕戦、日本シリーズ、引退試合など) で使用されたボールは、球団の歴史資料として保管されることがある。野球殿堂博物館には、歴史的な試合で使用されたボールが展示されている。1 個のボールの「一生」は、製造工場で生まれ、泥揉みを経て試合に投入され、数球で交換された後、練習場で使い倒されるか、幸運にもファンの手元で記念品として永遠に保管されるか。ボールの運命もまた、野球の一部なのである。
ボール 1 個の値段 - 意外に高い消耗品
NPB の公式球 1 個の価格は公表されていないが、一般的なプロ仕様の硬式球は 1 個あたり 2,000〜3,000 円程度とされている。仮に 1 個 2,500 円として、1 試合で 100 個使用すると 25 万円。年間約 860 試合で計算すると、NPB 全体で年間約 2 億 1,500 万円がボール代に費やされる計算になる。これは 1 球団あたり約 1,800 万円。決して小さな金額ではないが、選手の年俸総額と比較すれば微々たるものである。しかし、このボール 1 個 1 個が試合の結果を左右する。縫い目の高さが 0.1 ミリ違えば変化球の曲がりが変わり、反発係数が 0.01 違えばホームランがフェンス手前で失速する。プロ野球は、この小さな革の球に支配されたスポーツなのである。