三者凡退の発生率 - 全イニングの約 3 割
NPB の試合データを概観すると、三者凡退 (3 人の打者が連続でアウトになり、走者が一人も出ない回) は全イニングの約 25〜35% の頻度で発生するとされている。9 回の試合で両チーム合わせて 18 の攻撃イニングがあるとすると、そのうち 5〜6 イニングが三者凡退で終わる計算になる。つまり、1 試合の約 3 分の 1 の回では「走者が一人も出ない」のである。この数字は、投手の能力が高い試合ではさらに上がる。エース同士の投げ合いでは、三者凡退の割合が 40% を超えることもある。逆に、打撃戦では三者凡退の割合は 20% 以下に下がる。三者凡退の頻度は、その試合の「テンポ」を決定する重要な要素である。
三者凡退の内訳 - 三振、ゴロ、フライ
三者凡退の内容にも種類がある。最もテンポが速いのは「三者連続三振」で、投手が 3 人の打者を全員三振に取るケースである。これは 1 イニングで最少の 9 球 (各打者 3 球) で終わる可能性があり、実際に 9 球で三者凡退を達成した投手は NPB にも存在する (いわゆる「イマキュレートイニング」)。ゴロやフライによる三者凡退は、打球処理のプレーが発生するため、三振よりは「何か起きている」感覚がある。特にファインプレーを伴う三者凡退は、走者が出なくても観客を沸かせる。一方、平凡なゴロ 3 つで終わる三者凡退は、最も「何も起きなかった」と感じられる回である。同じ三者凡退でも、その内容によって観客の体感は大きく異なる。
「何も起きない」は本当に退屈なのか
三者凡退の回を「退屈」と感じるかどうかは、観客の野球リテラシーによって大きく異なる。野球に詳しくない観客にとって、三者凡退は文字どおり「何も起きなかった回」であり、退屈に感じられる。しかし、野球に詳しい観客にとっては、三者凡退こそが投手の支配力を示す最も雄弁な証拠である。9 球で三者凡退を達成した投手のイニングは、ホームランが飛び出すイニングと同じくらい、あるいはそれ以上にエキサイティングである。投手がどのような配球で打者を打ち取ったか、打者がどのような反応を見せたか。三者凡退の「過程」に注目すれば、そこには濃密な駆け引きが詰まっている。
三者凡退が続くと試合は短くなる - 時間の経済学
三者凡退が多い試合は、試合時間が短くなる。走者が出ないため、牽制球、盗塁、投手交代などの時間が発生しない。三者凡退のイニングは平均して 5〜8 分で終わるが、走者が出て得点が入るイニングは 15〜20 分以上かかることがある。投手戦で三者凡退が多発する試合は、2 時間台で終わることもある。逆に、打撃戦で走者が頻繁に出る試合は 4 時間を超えることがある。試合時間の長短は、三者凡退の頻度に大きく左右される。「テンポの良い試合」とは、言い換えれば「三者凡退が適度に多い試合」なのである。
完全試合 - 27 人連続三者凡退の極限
三者凡退の究極形は完全試合である。9 イニングすべてで三者凡退を達成し、27 人の打者を一人も塁に出さずに抑える。NPB 史上、完全試合は 16 回しか達成されていない。完全試合は「何も起きない」の極限であるが、同時に野球で最もドラマチックな出来事の一つでもある。回が進むにつれて「まだ走者が出ていない」という事実が重みを増し、7 回、8 回、9 回と進むにつれて球場全体の緊張感が極限に達する。完全試合の 9 回は、サヨナラホームランの瞬間に匹敵する興奮を生む。「何も起きない」ことが最大のドラマになるという逆説は、野球というスポーツの最も不思議な特性である。
野球は「何も起きない時間」を楽しむスポーツである
NPB の試合で三者凡退が全イニングの約 3 割を占めるという事実は、野球の本質を示している。野球は、常に何かが起きているスポーツではない。むしろ、何も起きない時間の方が長い。しかし、その「何も起きない時間」があるからこそ、何かが起きた瞬間の価値が最大化される。ホームランは、それまでの凡退の積み重ねがあるからこそ爆発的な歓声を生む。サヨナラ安打は、それまでの膠着状態があるからこそ劇的になる。野球の「退屈」は、ドラマの「伏線」なのである。三者凡退の回を退屈と感じるか、次の展開への期待と感じるか。その違いが、野球を好きになれるかどうかの分かれ目かもしれない。