雨天中止の経済学 - 1 試合中止で失われる収益の全貌

1 試合中止の直接的損失

NPB の 1 試合あたりの平均興行収入は、 2023 年シーズンで約 1 億 2000 万円と推計される。内訳はチケット収入が約 6000 万円、飲食・グッズ売上が約 3500 万円、スポンサー関連が約 2500 万円である。試合が中止になった場合、チケットは払い戻しまたは振替試合への振り替えとなるが、飲食・グッズの売上は完全に消失する。さらに、球場スタッフの人件費、警備費、電力費などの固定コストは中止でも発生するため、実質的な損失は売上消失額を上回る。広島東洋カープの試算では、マツダスタジアムでの 1 試合中止による純損失は約 4000 万円に達するとされている。

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チケット払い戻しの仕組みと課題

NPB の統一規定では、試合開始前の中止はチケット全額払い戻し、 5 回終了前の中止はノーゲームとして払い戻しとなる。この成果を背景に、 2019 年のデータでは、セ・リーグ全体で年間約 35 試合が雨天中止となり、払い戻し総額は推定 20 億円に上った。電子チケットの普及により払い戻し処理は効率化されたが、遠方から来場したファンの交通費や宿泊費は補償されない。 2022 年からは一部球団が雨天中止保険付きチケットを販売し始め、横浜 DeNA ベイスターズでは 500 円の追加料金で交通費の一部を補償するプランを導入している。

周辺経済への波及効果

試合中止の影響は球団だけにとどまらない。球場周辺の飲食店、居酒屋、交通機関にも大きな打撃を与える。神宮球場周辺の飲食店組合の調査では、ナイトゲーム中止 1 回あたりの周辺飲食店の売上減少は合計約 800 万円と試算されている。タクシー業界への影響も無視できず、試合終了後の需要が消失することで 1 試合あたり約 200 万円の売上減となる。鉄道各社も臨時ダイヤの変更コストが発生する。 2023 年の阪神タイガース優勝争いの時期に甲子園で 3 試合連続中止となった際には、周辺地域全体で推定 5000 万円の経済損失が報告された。

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ドーム球場の経済的優位性

ドーム球場は建設コストが屋外球場の 2 倍から 3 倍に達するが、雨天中止がないことによる長期的な経済メリットは大きい。年間 5 試合の中止を回避できると仮定すると、直接的な収益保全だけで年間約 6 億円、周辺経済への波及効果を含めると 10 億円以上の差が生じる。東京ドームの運営会社の試算では、ドーム化による雨天中止回避の経済効果は 30 年間で累計約 200 億円に達するとされている。一方で、 2023 年に開場したエスコンフィールド北海道は開閉式屋根を採用し、天候リスクの回避と天然芝・開放感の両立を実現した。建設費約 600 億円のうち、開閉式屋根の追加コストは約 80 億円と報じられている。