ピッチトンネリングとは
ピッチトンネリングとは、異なる球種がリリースポイントから打者の判断ポイント (ホームベースの約 7〜8m 手前) まで同じ軌道を通り、そこから分岐する投球設計のことである。打者は投球の軌道を見て約 0.2 秒で振るか見逃すかを判断するが、トンネリングが成功すると判断時点では球種の区別がつかない。MLB では 2018 年頃からトラッキングデータを用いたトンネリング分析が普及し、投手のコーチングに革命をもたらした。NPB でも 2022 年頃からトンネリングの概念が浸透し始め、ソフトバンクや DeNA のアナリティクス部門が投手の球種設計に活用している。
NPB での活用事例
トンネリングを意識した投球で成果を上げた NPB の投手は増えている。オリックスの山本由伸はストレートとフォークの軌道が途中まで酷似しており、打者が判断を誤る場面が多い。山本のフォークの空振り率は 40% を超え、これはトンネリング効果の典型例とされる。阪神の才木浩人はカットボールとストレートのトンネリングを磨き、2023 年に被打率を大幅に改善した。広島の森下暢仁はトラッキングデータを活用してチェンジアップの回転軸を調整し、ストレートとの軌道差を判断ポイントまで最小化した。MLB ではダルビッシュ有がトンネリングの名手として知られ、7 球種以上を同じリリースポイントから投げ分ける技術を持つ。
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トンネリングの科学的背景
トンネリングの効果は人間の視覚認知の限界に基づいている。打者の目は投球の初期軌道から最終到達点を予測するが、この予測は直線的な外挿に依存する。ストレートとフォークが同じ初期軌道を持つ場合、打者の脳はストレートと判断して振りに行くが、フォークは途中から急激に落下する。この「予測と現実のズレ」が空振りを生む。トラッキングデータでは、リリースポイントからの軌道の一致度を「トンネルスコア」として数値化できる。トンネルスコアが高い投手ほど、被打率と被長打率が低い傾向がある。NPB では全球場へのトラッキングシステム導入が進んでおり、トンネリング分析の精度は年々向上している。
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トンネリングの限界と未来
トンネリングは万能ではない。球速差が大きすぎる球種の組み合わせ (例: 150km/h のストレートと 110km/h のカーブ) ではトンネリング効果が薄れる。また、打者側もトンネリングへの対策を進めており、初期軌道ではなくリリース時の手首の角度や腕の振りから球種を判別する技術を磨いている。楽天の浅村栄斗は「ボールの出どころを見る」打撃で知られ、トンネリングに対する耐性が高い打者の一人である。今後はトンネリングと打者の対策が「いたちごっこ」のように進化し続けるだろう。投手と打者の知的な攻防が、野球の奥深さをさらに増していく。