左腕専門リリーバーの変遷 - ワンポイントから複数イニングへ

ワンポイントリリーフの黄金期

NPB では 1990 年代から 2000 年代にかけて、左打者 1 人を抑えるためだけに登板するワンポイントリリーバーが各球団に定着した。代表的な存在が中日の落合英二で、 2004 年にはシーズン 72 試合に登板しながら 1 試合あたりの平均投球数はわずか 8.3 球であった。ヤクルトの高津臣吾も現役時代にワンポイント的起用を経験し、後に監督として左腕リリーバーの運用を重視した。クライマックスシリーズや日本シリーズでは、相手の主軸左打者を封じるために左腕リリーバーが勝敗を左右する場面が頻出し、 2008 年の日本シリーズでは西武の星野智樹が巨人の左打線を 5 試合で計 7 人封じる活躍を見せた。左対左の対戦では打者が不利になる傾向があり、この優位性を最大限に活用する戦術が 1990 年代後半に確立された。

リリーフ投手の戦術に関する書籍は Amazon で探せます

データが示す左対左の優位性

データスタジアムの分析によれば、 2015 〜 2020 年の NPB における左投手対左打者の打率は .231 で、右投手対左打者の .268 と比較して 37 ポイント低い。それゆえ、特にスライダーを武器とする左腕投手の対左打者被打率は .205 まで下がり、チェンジアップとの組み合わせでは .198 という数値も記録されている。この数値的根拠がワンポイント起用を正当化してきた。しかし近年はサンプルサイズの問題が指摘されている。ワンポイント登板では 1 試合あたりの対戦打者数が 1 〜 2 人に限られるため、年間の対戦サンプルが 150 打席に満たないケースが多く、統計的な信頼性に疑問が呈されている。また、ブルペンでの準備時間が実際の投球時間を大幅に上回る非効率性や、頻繁な登板による肩肘への負担増加も問題視されるようになった。

MLB ルール変更の波及効果

2020 年に MLB で導入された 3 バッター・ミニマム・ルールは、投手が最低 3 人の打者と対戦しなければならないという規則である。導入前の 2019 年には MLB 全体で年間約 2,100 回あった打者 1 人のみ対戦の登板が、 2020 年以降はゼロになった。 NPB ではこのルールは採用されていないものの、 MLB の影響を受けて左腕リリーバーの起用法を見直す動きが出ている。ソフトバンクの嘉弥真新也は 2021 年から複数イニングを任されるようになり、年間投球回数が 2019 年の 28.1 回から 2022 年の 45.2 回へ増加した。 DeNA の田中健二朗も同様に、左打者限定の起用から 1 イニング完了型へと役割が変化した。複数イニングを任せられる左腕の価値が相対的に高まっている。

野球データ分析の関連書籍も参考になります

NPB における左腕リリーバーの未来

今後の NPB では、左腕リリーバーに求められる役割がさらに多様化すると予想される。阪神の岩崎優は左腕ながらクローザーを務め、 2023 年に 35 セーブを記録して日本一に貢献した。右打者に対しても被打率 .218 と安定した成績を残し、左腕の新たなロールモデルとなった。また、オープナー戦術の導入により、左腕投手が先発の 1 イニング目を担当するケースも増えている。日本ハムは 2023 年に左腕の宮西尚生をオープナーとして起用する試みを行った。左腕という身体的特性を活かしつつ、柔軟な運用に対応できる投手が求められており、育成段階から複数の役割をこなせる左腕の養成が各球団の課題となっている。

参考文献

  1. データスタジアム「左対左の数値分析」データスタジアム、2021-04-20
  2. Full-Count「3 バッターミニマムルールの影響」Creative2、2022-03-15
  3. 日本経済新聞「NPB リリーフ起用法の変化」日本経済新聞社、2023-06-10
  4. スポーツナビ「左腕リリーバーの未来像」Yahoo! JAPAN、2024-02-28